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柴崎友香『ドリーマーズ』

 

時間は幾重にも折り重なった薄絹のようなもので、現在の向こうにふと過去が透けて見えることがある。あるいははっきりと意識していないだけで、私たちの思考は現在と過去を常に行き来しているのだと言ってもよい。柴崎友香『ドリーマーズ』は夢をモチーフとした6つの作品からなる短編集だ。そこでは「今ここ」とそうでないものの境界が揺らいでいる。それは例えば幽霊として、夢として、あるいは2つの時を往還する語りとして、登場人物たちの過ごす何ということはない日常の中に挟み込まれる。


バイトに向かう電車で読み終えた作品を思い出しながら帰りの電車でレビューを書き始め2日後の今、芝居を観に行く電車でそれは書き終えられつつあり、これを読むあなたの今はいつだろうか。こちらは8月18日12時53分、大井町を通過しつつある東海道線。その今も既に過ぎ去り12時54分。日付は既に変わっている。


電車に乗るとき、大抵は音楽を聴いている。シャッフルモードで聴くことが多いので、自分の意思とは関係なく流れてくる音楽に時々ハッとさせられる。横浜に向かう電車のボックス席に座る今ここの自分にスピッツの「ロビンソン」とともに小学生だった自分が流れこむ。隣のボックス席ではシートに足を乗せて寝ている男性。彼の今ここはどこにあるだろうか。


電車の中では4人の男女が会話を交わしている。男の1人が怖い話をしようとするが、怖い話は嫌いだと女が文句を言う。もう1人の男が子どもの頃の奇妙な体験を語り始める。自分は子どもの頃に死んでしまっているのではないだろうか。外を眺める女は以前食事をした店を思い出し、景色の中にその店を見つけようとする。大阪環状線外回りの電車は鶴橋へと向かっている。収録作の1編、「夢見がち」で描写されるのはそんな車内の風景だ。


電車のように直線的に進む時間の中、無限の襞が織り込まれていく。