読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

藤田貴大演出『小指の思い出』

舞台

難解、台詞が聞こえないとの前評判に怖れをなしていたがそんなことは全然なく。台詞はほぼほぼ聴き取れたし、演出や構成に関しては野田秀樹の戯曲をきちんと整理してわかりやすく提示していたように思う。特にいくつかの場面を冒頭に寄せてプロローグの形で複数の筋を整理して見せたのは親切。野田版では野田が一人で演じてた役を飴屋/青柳の二人一役に分割したのも、そもそも野田が二重人格のような二人一役を一人で演じていたことを考えれば、十分にあり得るしわかりやすい演出。飴屋/青柳の二人羽織で二人が同一人物であることもはっきり示されてたし。「三月」の名を引き受ける圭一郎の台詞がラストに置かれていることを考えれば、聖子/八月を二人に分割することで聖子・八月・三月と連なるラインをクリアに見せる意図もあったとも考えられる(代わりに野田版の連なる布団=凧のモチーフはほぼなくなってたけど)。

青柳いづみ演じる八月=聖子が火あぶりにされるラストまでたどり着くと、それまで観ていたものが死にゆく八月の/法蔵の走馬灯だったかのようにも感じられた。現実=生の最後の一瞬に広がる妄想の永遠。徐々にスピードを落としながらラストに向かう(ように思える)演出の効果だろう。永遠の静止=死へと向かう漸近線。

このあたりの演出はよかったと思う一方、この作品に音楽は必要だったのかとか(生演奏自体は非常に素晴らしかったのだけど、マームとジプシーのときみたいに音楽に乗せるような形で言葉を発しているわけではなく、逆に言葉を疎外している=言葉に集中できないように感じた)、特に若い俳優の言葉が全然入ってこないとか(その意味ではベテラン陣はさすがの貫禄)あって結果としてイマイチ作品には乗れず。やっぱ野田のエネルギッシュな演出で観たいなーって気分になってしまった。