舞城王太郎『SPEEDBOY!』

 『煙か土か食い物』でメフィスト賞を受賞&デビューして以来自分自身とその文体をひたすらドライブしてきた舞城王太郎がまさに自らのまとうスピードそのものをモチーフとして書き上げた小説『SPEEDBOY!』は背中に鬣を持つ少年の疾走に加速していく文体/展開で伴走しその速度で未知の風景にバチーンとぶつかった俺はしばし呆然とする。

 

人外の速さで獣のように走る成雄は家族からもなんとなく距離があるし同じくらい速い仲間がいても分かりあったり全然しないのはむしろそういう周囲の人間こそが自分の限界を決めるんだとか思っちゃったりしてるからでとにかく周りに執着がないままますます独りで突っ走るその先に何があってどこに向かってるのか分からないまま走りだけが研ぎ澄まされていく。

 

陸上部のコーチに捨てられたというかむしろ捨てた成雄は自衛隊で他のランナーを追っかけたり追っかけられたり謎の白玉とバトルしたりするんだけどあれれ?ってなるのは1から7までナンバーの振られた断章はガクンガクンとギアが変わるみたいに時間も空間も設定も断絶して成雄とともに物語も加速ってかワープ!でも成雄は成雄だし他のキャラクターとかプロットだって何となく一貫してるから「?」はどんどん膨らんでたしかなのは速度だけ。俺はそれにしがみつく。


7まで上げたギアのトップスピードで見える風景は愛。パラレルワールドまがいの断章をずがーんとぶち抜いて走ってきた俺が最後に目の前に現れたそれにそのままの勢いで突っ込み声も出ないくらいに打ちのめされるのは速度と衝撃が比例するからだ。相手の全てに正面からぶつかる愛に理由はないしいらない。駆け抜けて置き去りにしてきた断章でさえもイナズマのように愛は貫く。どんなにスピードを上げても自分も他人も振り切れなくてむしろどうしようもなく誰かに出会ってしまうのが人間で世界で愛なんだ。