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阿部和重 伊坂幸太郎『キャプテンサンダーボルト』

 物語はあるバーからはじまる。中年男に口説かれる若い女。彼女は男から情報を引き出そうとしている。東京大空襲の夜、東北は蔵王に墜落した一機のB29。ニックネームはチェリー・ザ・ホリゾンタル・キャット。地平線の猫、チェリー。B29はなぜ東北にいたのか。彼女の目的は何なのか。魅力的な謎を提示し時間は一年後へ飛ぶ。

 阿部和重伊坂幸太郎による「完全合作」(交互に1章ずつ書きながら互いの原稿にもかなり手を入れたとのこと)は超弩級のエンターテイメント大作となった。主人公は(作者と同じく)二人の男。相葉時之と井ノ原悠はかつて野球のチームメイトで「ここぞというときに不思議な力を発揮する、唯一無二のふたり組」だった。ある事件をきっかけに関係を絶っていた二人だが、違法なアルバイトのトラブルで相葉が逃げ込んだ先の映画館(のトイレ)でバッタリと再会してしまう。そして冒険がはじまる。

 公開目前でお蔵入りしたヒーロー映画『鳴神戦隊サンダーボルト』、蔵王周辺で発生する謎の伝染病・村上病、墜落したB29、そして宝の地図(?)の入ったスマートフォンとそれを追う銀髪の怪人(!)。ハリウッドばりの(しかし舞台は仙台と山形)道具立てでテンポよく進む物語はしかし、それなりにビターでシビアだ。「野球には逆転があるが、俺たちの生きている社会にはなかなかない」。相葉も井ノ原も人生の苦境に立たされている。だがそれでも生きていかなければならないし、何よりゲームセットがいつ訪れるかは誰にもわからないのだ。「走れ走れ、もっと走れ、力を抜くな。それは自分を叱咤する自らの声であり、同時に、少年野球の時のスパルタコーチの声だ。」相葉は、井ノ原は蔵王へと走る。

 過去は変えることができない。だが捉え方を変えることはできる。張り巡らせられた伏線=過去が回収されるとき、二人は人生の新たな一歩を踏み出すことになるだろう。その瞬間は走り続けたその先にしか訪れない。